第26章 【呪術廻戦】DOOR【3】
椅子から勢いよく立ち上がり、肩に触れていた硝子の手を払う。
睨みつける様に硝子を見るが、彼女の瞳はどこまでも真っすぐで、嫌でも理解せざるを得なかった。
力を失い、地面に膝をつく五条。
唇は震え、瞳は絶望を噛みしめているように揺れていた。
うなだれる様に俯く五条に、硝子は静かに口を開く。
「これで、いいんだよ」
「………」
「生命を繋ぐことはできない。人を、蘇らせることはできない」
小さく背中を丸め、震える五条の身体。
それを目に映しながら、硝子はただ淡々と正論を述べる。
「医学でも科学でも。死んだ人間を生き返らせることは、神への冒涜なんだよ」
「僕は‼僕は、限界を超えることができるんだ!!立ちふさがる壁の、その向こうを見ることができるんだ!!」
拳を握り思い切り床を殴りつける五条。
強く握りすぎたのか、掌からは赤い液体が滴っていた。
だけど誰もそれを気にすることなく。
重たい空気がこの部屋を覆っていた。
「この世に。"限界を超える"なんて言葉は存在しないよ」
「……」
「七海は確かに一度だけ、この世を見た。彼はお前の力によって、最後に金縛りが解けた。やっと死ぬことができた」
「……科学は、科学に限界はっ、……ない」
限界はない。
なぜなら先ほど確かに動いたから。
瞳を開けて指先が動いて。
死んだはずの人間が再び、この世に……。
限界などでは、ない。
「その時お前は確かに鍵となり、限界という扉を開けた」
科学に限界はない。
そう、はっきりと断言したいのに。
うまく言葉が舌に乗らない。
喉の奥でつっかえて、音にならない。
「五条。扉の向こうには、一体何が見えた?」
未だに憔悴しきっている五条に、硝子は容赦なく問いかける。
自分の言葉で、自分の実験結果を述べろと。
そう言った。