第26章 【呪術廻戦】DOOR【3】
「扉の、向こうには……」
小さな声が、硝子の耳に届く。
か細く今にもかき消えてしまいそうなほどの、弱弱しい声。
「扉の向こうには?」
「……っ」
「はっきり言いなよ。扉の向こうには、何が見えた?」
「…………壁」
「もう一度言おう。"限界"なんて言葉は、この世にはないんだよ」
五条の前に現れる扉。
その扉には「LIMIT」と書かれていた。
家入は扉の前まで行くと、ドアノブを勢いよく回し、そして開けた。
その向こう。
扉の先は、真っ白い壁が聳え立っていた。
「っ……」
唇を噛みしめる五条。
目の前の現実を受け入れることができずに壁から視線を反らす。だが、硝子はそれを許さない。
「さあ、報告してください。お前は確かに鍵となり扉を開くことができた」
「!!」
「さあ、報告してください」
五条は、眉間に皺を寄せ奥歯を噛みしめ唇を噛み、震える足に力を入れて、ゆっくりと立ち上がった。
頭も心も体も何もかもが痛かった。
だけど、報告しなければいけない。
それが科学者としての仕事だから。
「科学は……日々進歩しています。しかし……科学の進歩は………っ、科学の進歩は、その"限界"を知ることです……」
進歩とは限界との一方通行のようなもの。
「2050年、プログレスサイエンス。お前は限界と向き合った。そしてお前は漸く限界に辿り着いたんだ」
「は、はは……はははっ!!」
五条は、声を上げて笑った。
腹を抑えて大声で笑い続ける。
進歩とは限界のこと。
それにたどり着いた時、五条は自身の鍵を開けることができた。
笑い続ける五条。
その様子を見ていた硝子は、静かにその部屋を後にする。
残された後も、男はずっと笑い続け、その瞳から一筋の涙を零した。