第3章 【爆豪勝己】盲目をつきやぶれ
「あれ掛けてくれたの、あんただったらいいなってずっと思ってた」
何だって。
私が内容を理解しないうちにバクゴーは、あっという間に踵を返して脱兎の如く駆け出した。
扉が閉まる音で救護室が揺れた。
私はずるい大人だったし、勝負所も知っていたので、すぐに茫然自失の状態から覚めて手近なところにあった椅子を勢いよく倒した。
ベッドから降りて付近にしゃがむ。
遠ざかっていた足音はすぐに止まり、再び近づき、やがて扉は開かれた。
床に跪く私を見て、バクゴーは一声吠えた。
「だから急に動くなっつってんだよ!」
助け起こそうと近付いてくれるバクゴーに「ごめん」と謝罪した。
今私は君を騙している。
手を伸ばしている君の手を引っ張って引き寄せて、抱き込んでしまおうと思っている。
バクゴーはおずおずと私の指に触れた。
私が手を握るのをじっと待ってくれている。
―――私は企みを実行に移した。
心臓が痛いくらいに鳴っていた。
バクゴーは無抵抗で私の胸の中に来た。
耳のすぐ近くで、「馬鹿が」と声がした。
私が頷くと、バクゴーの両腕は私の背中に回る。
私の肩に顎が乗る。
「俺も、ほんっとーに、馬鹿」
声は救護室に甘く響いた。