第1章 【伏黒恵】あなたに聞きたいことがある
「あの、起きてくれませんか?」
あの後、伏黒はチビ黒に少し待つようにと言い残し、男を探した。
男は家で寝ていると言っていたが、少し離れた場所で大木を背に寝ていた。
それを見つけて、イラっとした伏黒は歩幅を広めて近づき声をかけた。
「あ?なんだお前。恵はどうした?」
「向こうで、玉犬出す練習するって言ってました」
「ああ……。にしてもよくここがわかったな」
「探しました」
「へぇ。お前、名前は?」
恵、と名乗りそうになった伏黒は少し考えたあと「悟」と恩師の名前を出した。
なぜその名前を出したのか伏黒自身もよくわかっていない。
男は一瞬目を丸くしたあと、にやりと笑う。
「俺の知り合いにも同じ名前の奴が要るんだけどよ、こいつがまた六眼持ちの無下限の術式を使う奴でな。生意気なんだぜ」
「そう、ですか」
「こう見えてあのチビの父親なんだ、俺。あいつの術式見たか?」
「はい、少しだけ……」
「へったくそだろ。相伝術式受け継いでんのに、まだ玉犬すら出せねえの」
「そうですね……」
「笑っていいともみたいな反応すんな、お前」
「は?」
「はは、気にすんな」
ケラケラ笑う男に、伏黒は少しだけ戸惑いを見せながらも一つの疑問を投げつける。
「どこかに、行くんですか?」
「……なんでそう思う」
「なんとなく。そんな気がして……」
「どうだろうな。ただ、仕事が入った。しばらくはあいつの所には帰らないだろうな」
「……」
「せめてあいつが玉犬を出せるまではと思ったが、世の中そううまくはいかねえみたいだ」
その言葉に、伏黒は生唾を飲み込んだ。
逆を言うなれば、玉犬を調伏したなら男はチビ黒の前から完全にいなくなると言う事だろう。
「もし、調伏したら、あんたはあの子を置いていくんですか?」
「………置いていくんじゃない。売りに行くんだよ」
にたり、と男は笑った。
伏黒はぐっと唇を噛み拳を握った。