第30章 【ヒロアカ】Who killed Cock Robin【4】
『わかっていただろう』
後ろから声が聞こえた。
野次馬の声やヒーローたちの避難誘導の声、消防車やパトカーのサイレンの音が響く中、その声だけがやけにはっきりと聞こえた。
いや、それしか聞こえなかった。
緑谷以外の人間は、まるで時が止まったかのように身動き一つしていない。
『本当は、気付いていたはずだろう。でも、気付かないふりをしていただろう』
「……僕、は」
『憧れの人から"個性"を授かっただけだ。本来の君は"無個性"なんだよ』
「ヒーローに……なれるって……言って、くれた……!!小心者で"無個性"の僕だから、動かされたって……言っていたっ!!」
大きな瞳から涙を零す緑谷の言葉を"それ"は口元を歪めて楽しそうに笑って聞いていた。
緑谷自身、考えないようにしていただけだった。
"もしも"のことを思ったら、心が張り裂けるくらいとても悲しくてとてもつらいことだから。
だからこそ、"それ"は緑谷の閉じた心の奥の鍵を無理矢理こじ開ける。
『勘違いをしたらだめだよ。だって、君は"今"動けなかったじゃないか』
「それは……」
『"もしも"君がヘドロに捕まっていなかったら?"もしも"た助けに来たヒーローがあの人じゃなかったら?"もしも"かっちゃんがヘドロに捕まらなかったら?それに、"もしも"あの人がこの街に来なかったら?君は"個性"を授かることができたのかな?』
考えないようにしていた。
だけどふとした瞬間に考えてしまう、"もしも"のことを―――。