第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
どこにいるのかわからない。
必死に校舎を探し回っていると、窓の外に棘の姿を見つけた。
急いで彼の後を追う。
棘が向かった場所は高専の区画内にある湖。
少し離れた場所で、彼の様子を見ていた。
上がる息を押し殺し、気配を消して。
棘は紙袋の中から小さな箱を取り出す。
しばらくそれを見つめる彼は、苦しそうに顔をゆがめる。
綺麗な曲を奏でていたその箱は。
綺麗な孤を描きながら空を舞い。
捨てられて湖の底へ消えた。
「棘……」
何も言えなかった。
どうすることもできなかった。
こういう時、どう声をかければいいの。
どうしてこんな風になってしまったの。
私はただ、ずっと幼馴染のままでいられたらよかったのに。
「野薔薇……私はどうすればよかった?棘の気持ちに応えてやればよかった?知らないフリしないでちゃんとすればよかった?」
いつの間にか私の後ろにいた野薔薇に声をかける。
震える声を必死に抑えながら、私は一つ下の後輩に最適解を求めた。
だけど、野薔薇は何も言わなかった。
こういう時、何も言ってくれないんだね。
傷付けることが優しさだなんて、私はどうしても思えない。
思えないけど、結局私は棘を傷付けた。
大切な幼馴染を。
大好きな幼馴染を。
「どっちにしても、傷つけない方法なんてなかったと思いますよ、私は」
野薔薇はそれだけしか言わなかった。
私は、棘も恵も傷つけてしまった。
自分勝手な我儘で。
溢れる涙を抑えきれない。
震える棘の背中はとても小さく、私の心を苦しめる。
オルゴールが奏でていた恋の歌は。
とても綺麗で優しく柔らかかった。