第10章 【狗巻棘】舞台、閉幕。
あの子はきっと私のことが好きなんだと思う。
小さい頃からずっと一緒にいた。
所謂、幼馴染。
いつの間にか彼の気持ちに気が付いていた。
もうずっと前から知っている、その気持ち。
幼い頃は自分の言葉で傷つけられた時もあった。
その度に、誰よりも傷ついた顔をする彼を助けたくて。
安心させたくてずっと笑っていた、傷ついてほしくなかったから、大切な幼馴染だから。
彼の気持ちを確かめる勇気なんてなかった。
それ以上の関係なんて望んでいなかった。
ただ、幼馴染のままでいられればよかった。
彼の言葉で、彼自身を呪ってほしく、なかった。
そう思っていただけなのに。
私と彼は幼馴染だったけどあっちは一度も私の名前を呼びはしなかった。
私を傷つけないために、誰も傷つけないために、語彙を絞って、話をする彼の優しさに甘えた。
誤算だった。
まさか私のことを好きになるなんて思っていなかった。
私は恵の事が好きで、恵と付き合っていたから。
焦った。
どうしようと思った。
恵と付き合っていることを知られてはいけないと思った。
けど、たぶん。
バレていたと思う。
勘のいい彼のことだから。
もし彼に告白をされたら私は彼の想いを断らなければならない。
だけど、彼を傷つける事だけは嫌だった。
それだけは絶対にしたくなかった。
棘が傷つかない優しい世界。
だから私は彼の気持ちに気づかないフリをした。
演じたのだ。
何も知らない私。
棘が望む私。
私が望む私。
全てを演じた。
うまく演じられたかはわからない。
けれど私は、理想の自分を演じたのだ。