第9章 【狗巻棘】舞台、開幕
俺よりだいぶ身長の低い彼女は、自然と上目遣いをしてくる。
仕方ないんだろうけど、やめてほしい。
俺の気持ちなんて彼女は知らないから、なんとも思っていないんだろうけど、俺からすればそれは毒だ。
恵、ちゃんと注意しなくちゃ。
は無自覚天然男誑しなんだから。
「こんぶ」
「明後日私の誕生日でしょ?だからみんなでお祝いしようって話してて、明後日空いてる?」
小さく首を横に傾ける。
本当にやめてほしい。
俺のこの恋心にこれ以上火をつけないで。
「しゃけ」
「ほんと?やった!!」
ぴょんぴょんと跳ねて。
真っ赤な唇が弧を描く。
あぁ、どうして俺は……。
「じゃあ、明後日楽しみにしてる。誕プレもね」
「ツナマヨ、明太子」
「あはは、バレた?」
「ツナツナ」
「あはは!!じゃあ、またね」
にっこりと笑って。
俺も笑った。
遠のく背中を見つめ、そして誕プレに目を移す。
彼女がこれを喜んでくれたなら、それだけで俺は。
部屋に入ろうとした時、遠く離れた場所からが声をかけた。
俺に届くように大きな声で。
「棘ー!!何か悩み事あったら言ってね!幼馴染なんだから隠し事、なしだよー!!」
それだけ言って、今度こそ俺の前から姿を消した。
だからでしょ。
幼馴染だから隠すんでしょ。
恵の彼女だから、大切な後輩の彼女だから、隠すんでしょ。
じゃなきゃとっくの前に好きだと伝えている。
強く拳を握りしめた。