第8章 【夏油傑】ひとでなしの恋【R18】
今すぐにでもここから立ち去りたいは、一心不乱になってそばを啜った。
彼女の様子を横目で見ていた夏油は先ほどの真面目なトーンとは打って変わって少しだけ柔らかく軽い口調で、
「今までたくさんの色んな女性と付き合ってきたけど、結局いつも頭の中に思い浮かぶのは、という女性だよ。これは嘘じゃない」
そう言った。
細長い瞳が更に細長くなり、薄い唇は三日月の様に弧を描く。
子供のようなその無邪気な笑顔に、不覚にも心臓を鷲掴みにされてしまったは、口の中に含んでいたそばをゆっくりと飲み込み、口を開いた。
時間にしてほんの数秒の間。
だけど、にとってその数秒は3分くらいのものに感じた。
その間、脳内に駆け巡る言葉たちはぐるぐると回るだけで一向に音として口から出ようとしない。
整理整頓できないままの思考でとりあえず思った事をそのまま夏油にぶつけた。
「じゃあ、いも天ちょうだい。そしたら付き合ってあげる」
長い。
長い沈黙の後。
声を上げて笑う夏油の珍しい姿がの目に映った。
腹を抑えてひーひーと苦しそうな夏油の目じりには涙が溜まっている。
「最高だね、君って女は。はいこれ、いも天あげるから私と付き合ってくれるね?」
こうして二人の交際は始まった。
任務帰りに立ち寄った立ち食いそば屋のカウンターで。
彼らは後に口を揃えて「あんなにムードのない告白をされることは後にも先にもないだろう」と語った。