~たゆたううたかた~【禪院直哉/R-18/短編集】
第5章 ごっこ遊び 【禪院直哉】
「どうせ…わざと…
見られるために…あんな所で
あんな事…してたんじゃないんですか?」
弥生さんと…廊下の隅で
わざと見せつける様にイチャイチャして
ねっとりとしたキスをお尻を
揉みながら交わしていたのは…見たけど。
そんなの…私にはどうでもいい。
『えぇえ~、ちょっと位自分も
嫉妬とかしてくれてもええやん?
俺に…気ぃ許してくれてもええやんか?』
いや…絶対無理…ッ…。
「私にそんな事…望んで貰っても困ります…」
『こんなに…健気に…ちゃんに
俺の事、好きなって貰お思ってんのに。
俺が可愛そうや…って思わへんの?』
やってる事がやってる事だし…
思わないなぁ…残念ながら…。
千夏さんでも弥生さんでも
好きな方を嫁にすればいいのにと
そんな気持ちすら湧いてくるが…。
こっちが…直哉様との…距離を離そうと
努力すればするほど、あっちは
心理的な距離を詰めて来ようとする。
『だんまり…かいな…。
ま…ぁ…、ええわ。明日…
自分と出掛けるん楽しみしてんで?』
あんまり…とげとげしい言葉も
自分の両親や兄弟が居るので
私も…出来ないから黙るしかないんだけど。
そのまま自分の隣を
すれ違って行くのだと思った直哉が
すれ違いざまに…こっちの身体を
強く抱きすくめて来て、その
速さに躱す事は出来なくて…
その腕の中に捕らえられてしまって居た。
しっかりと…身体をホールドされて
こっちは…身じろぐのも難しい。
「……んんんッ!!」
動きを封じられたままで
強引にキスをされてしまって。
こじ開けられた口の中に
舌が押し込まれて行く…。
『許したらへん…言うとるやろ?
そんな…態度取ったって…、
アンタの思い通りには…俺はならへんで?』
その…耳元で囁かれた言葉に
カクンと…膝の力が抜けてしまって
そのままその場に座り込んでしまって居た。
ゾクゾクっと…寒気の様な
そんな感覚が遅れて走って来て…。
戯れ…の様な…この茶番は…、
全てが…直哉様の手の平の上で…。
一度…その上に乗せられた私達は…
この遊びを…勝手に辞めさせては貰えない。
『賢い女なんやから、
自分も、もうちょい賢く…生きや?』
ヒラヒラと…床の上にへたり込んでいる
私に視線を向けることもなく
そのまま廊下を歩いて行ってしまって。