第4章 つよがり いいわけ あやうい子
「先輩、帰るよ。」
聞いたことのある声に顔を上げれば、マスコミを避けて私の腕を取る孤爪くん。人混みの中から引き出されると、マンションの中に逃げ込みエレベーターに乗る。
遠くからコヅケンだって声が聞こえて来たことに、罪悪感を感じた。
「孤爪くんごめん、民放のカメラ映るの好きじゃない…」
手を引かれ部屋へと入ると申し訳なさで謝罪を口にする。振り返った孤爪くんは帽子とマスクを外してため息をついた。
「先輩…椎名さん、買い物はできればネットで、それが無理な場合はおれかクロが代行するって話だったよね。そんなに急な買い物だった?」
少し強めの物言いに何も言えなくなる私にあのね、と話を続けていく。
「マスコミは行きは顔確認のためにあえて泳がせて、帰りに捕まえるっていうのが常套手段なの。遠慮して買い物頼まないだろうからってクロから言われたからだけど、来て正解だった。」
部屋入ろ、そう言われれのろのろと靴を脱ぐと部屋に入る、が、そのままその場に崩れ落ちる。
孤爪くんの心配する声が遠い。
じわじわと痛み始めたお腹の痛みと、迷惑をかけてしまった自覚に立ち上がることができない。
「…ごめん。」
「……おれこそ、ごめん。おれはクロみたいな慰め方できないから。」
そう言って差し出してくれたのはハンカチ。目元を触れば濡れていて、やっと自分の目が潤んでいることに気づく。
「……生理、来ちゃって…急だったからストックなくて買って来たの。軽率だった。ハンカチ洗って返す。」
溢れそうな涙を借りたハンカチで拭き取るとそのままポケットにしまう。
「いいのに…ん、クロから連絡来た…」
ちょっと待ってと端末を確認した孤爪くんが苦笑、見ていた画面を私に見せる。先ほどマスコミが押し寄せ孤爪くんが助けてくれた姿が拡散されているようですごい勢いでコメントが増す。
「ふふ、有る事無い事書かれてる。今日の夜あたり生放送やろうかな。」
「うそ、ごめん…」
「別に。会見まで止めなきゃならない情報以外は言っちゃうかもしれない。でもこれからもっと監視厳しくなりそうだから外出ないようにしてね。」
再びの注意に強く頷きゆっくり立ち上がるとその場でスマホを弄り出す孤爪くん。買い足すものはないか、欲しいものはないかを聞かれ首を横に振れば柔らかく笑いながら、自身が呼んだタクシーで帰って行った。