第3章 つよがり いいわけ かよわい子
軽いふれあいをしてる間に眠ってしまったらしい。ふと目を覚ませば聞こえる調理をする音と食欲そそる美味しそうな出汁の香り。幸せな音と香りに再び目を瞑ろうとすると、昨日枕元で充電した端末が起きる時間を知らせる。
「ははっ、うるせえ目覚まし。」
「……最近これ鳴っても起きられなくて…」
「やべえな。」
目覚ましを止めながらベッドの縁に座りぐっと背中を伸ばしていれば、作業を中断した夜久が正面の台所からスリッパの音を立てて近づいてくる。
「おはよ、夏乃。」
ちゅ、っと言う音と共に触れる唇。
その柔らかな表情と甘ったるい声音に赤面したのは内緒。
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夜久の作った朝食を食べ、朝の身支度をすればすぐに出る時間。貯めてしまったゴミを一緒に収集場に持っていけば、そのままエントランスに移動する。
「今日の記者会見終わったらあと軽いパーティあるんだけど、終わったら来るから。」
「ん、夜久も無理しちゃダメだよ。酔ってダメなら連絡して?私もあと1週間くらいで落ち着くから。」
「わかったけど、俺がいなくてもちゃんと飯食えよ。あとちゃんと風呂入ってベッドで寝ること。」
「夜久お母さんみたい。」
くすくすと笑みを溢せば急に引き寄せられる体。不機嫌そうな眉間を捉えた直後に重なった唇に赤面しながら、きょろきょろと視線を巡らせる。
「やくっ、ここ外…」
「母ちゃんじゃなくて……何?」
絡む視線に小さく息を呑む。駄々をこねるような表情と腰に強く回る腕。
これ、言うまで話してくれないやつ…
「彼氏、です。」
口篭りながら伝えれば満足そうに笑い体を解放する夜久は本当に格好良いし、誰にも見せたくない。
好きで、せっかく会えたのだからもっと一緒にいたい。
そんな名残惜しさを抱きながらも夜久と離れ私は仕事に向かった。