第3章 つよがり いいわけ かよわい子
ひとしきり仕事の愚痴を呟けば私の体を抱きしめ背中を摩ってくれる。そして落ち着いた頃を見計らって夜久はお風呂のお湯を貯めてくれた。
「ほら、入ってこいよ。俺がいるから溺れても大丈夫だって。」
正直、散らかった部屋に居させることが申し訳なくて夜久に先にお風呂に入ってもらおうとすれば、可愛らしい膨れっ面を私に見せる。
「仕事で疲れてるならちゃんと湯船に浸かってこい。ちゃんと風呂入りに行かねえと宿舎に戻るからな。」
「それは、や…」
せっかく会えたのに帰ってほしくなくて首を横に振れば、潤んだ目の端に唇が触れる。優しくて、愛おしくて、再び涙が溢れる。
「じゃあ風呂。行って来られるよな。」
優しげな声音に頷いてお風呂に向かうと夜久がいるからとしっかり髪も体も洗い湯船に浸かる。夜久が入れてくれたらしい愛用している入浴剤の香りに頬を緩ませるとしっかり肩まで浸かりぐっと体を伸ばす。
久々に泣いて腫れている目元に温めたタオルを乗せると眼精疲労のひどい目元は凝り固まった筋肉がほぐれる感覚。浴槽の縁で首の凝った部分を刺激しながら長く息を吐くと久々に体の力が抜けた。
湯に長く浸かっていれば外からのノック音。意識があることを伝えればよかったと笑い声がしたので流石に入り過ぎたかと反省して湯船から上がる。下着やTシャツを身につけ脱衣所から出れば、机の上はある程度片付き部屋には美味しそうな香り。
「やっと来た。飯さめちまうぞ。」
台所から出てきた夜久が差し出す皿にはこの家のどこにこんな材料があったのかわからない豪華なオムライスがあり、久々にお腹が鳴る。久々の手料理、それも自分以外が作った食事に目が潤む。
「ない材料から必死に作ったんだから残さず食えよ。あと欲しいもんあったら買って冷蔵庫入れとくから教えてな。」
久々に会った、部屋すら綺麗にできてない私に対してのこの神対応…本当好き。
いただきます、と手を合わせてスプーンで口に運ぶ。口に運べば優しい味付けの半熟の卵とご飯が口の中で解けていく。幸せな味で頬を緩ませれば、洗い物を終えた夜久がご飯と卵の比率がおかしいオム…ライス、いや、チキンライスonスクランブルエッグを運んでくる。
それがおかしくて思わず笑えばそれにつられて夜久も笑い出す。久々に笑い声を上げた気がする。
「やっと笑った。」
その言葉に、やっと、深く息が吐けた。