【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第8章 ※歪み
side 沙良
『ん………』
腕に重みを感じ、ゆっくりと目を開けると…
『…っ……』
飛び込んできた分厚い胸板と、綺麗な寝顔に驚いて声を失った。
『条…君……』
静かに寝息を立てて眠る条君は服も着ておらず、私の体に腕を巻きつけている。
伏せられたまつ毛は長く、鼻筋が通っていて別人のようだ。
『起きてると…可愛らしいのに…』
大きなタレ目は、寝ていてもよくわかり、半開きの口からは寝息が聞こえる。
程よく引き締まった体が密着し、頬が熱くなる。
『条君……起きて?』
外が暗くなってきた。
『条君…』
「ん……沙良ちゃん…起きた?」
『うん…そろそろ帰るね…暗くなってきたから。』
「待って…」
条君はぎゅっと私を抱きしめた。
「沙良ちゃん補給完了…
しばらくまた頑張れるかな…」
そう言って、条君はニコリと笑った。
『………』
服を着ると、ストッキングが伝線していることに気付いた。
『わっ…ひどい顔……』
髪を整えようと鏡を見ると、目の下が黒い。
「…ごめん…いっぱい泣かせちゃったから、マスカラ落ちちゃったね…」
条君が後ろから抱きしめながら耳元で囁く。
『っ…大丈夫…』
ストッキングは脱いで帰ったらいいし、顔は…少し擦ったら、いくらかマシになった。
暗くなったら更に見えにくくなるだろう。
条君が送るね…と言ってくれ、2人で服を着ると家を出た。
「また行くよ。お店に…沙良ちゃんも気が向いたら‥遊びに来てね。」
『うん、わかった…』
帰り道は無言だった。
これでもう、会わなくなってしまうのかもしれないと思った。
お店に着きそうな頃、遠くに見える人影に心臓がドクリと跳ねた。
『梅…君…』
そうだった。梅君に連絡する約束…
忘れていたわけではなかったけれど、お店の前にいるなんて…
お父さんと何か話している。
「あれ?梅宮…お店まで来てたんだぁ。」
「………」
何だか…様子がおかしい…
「お帰り沙良。今日は楽しかったみたいで良かったな。
あれ?お前…そんな格好だったか?」
『っ…こんな格好だよ?変わらないよ。』
「………沙良…少し2人で話したい。いいか?」
ニコリと笑う梅君。