【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第8章 ※歪み
side 十亀
ー約1時間前ー
風鈴の催しを楽しく眺めていると
「十亀さん、ちょっといいですか?」
高く澄んだ声が俺を呼んだ。
「…いいよ、蘇枋。何か用事?」
風鈴の奴らは人を外に呼びつけるのが好きだなぁ…
そんな風に思いながら蘇枋の後に続き、店の外に出た。
蘇枋は手を後ろで組み、ニコニコと俺を見つめて言った。
「全く…油断も隙もないなぁ、十亀さんは。
十亀さん程、名は体を表す、という言葉が似合わない人はいないですね。」
俺は目を見開き、頭を働かせた。
あぁ…そういうことね。
「…ふっ、何が言いたいの?」
わざとらしく言うと、蘇枋の顔から笑みが消えた。
見たこともない位、赤紫のガラス玉は怒りを含んでいる。
「いつそんな機会があったのかな…って考えたら、あの日ですかね。ポトスに来ないから、どうしたのかと思っていたら十亀さんに勉強を教えてる、って聞いて。
まさかとは思ったけれど、そのまさかだったとは。
驚きましたよ…本当に手が早い。」
まぁ…別に隠してないけど蘇枋が知ってるって事は、沙良ちゃんが言ったのかな。
なら別にいいよね。
「沙良ちゃんとセックスした事、言ってるの?」
「………」
生ぬるい風が頰を撫でる。
互いの髪がフワリと持ち上がった。
「…彼女は俺の恩人なんです。
大切で、大事な人…沙良ちゃんが誰かに傷つけられるのだけは見たくないので…
ただの火遊びなら早々に鎮火して、もう二度とないようにしてほしい。」
俺を真っ直ぐに見る蘇枋。
言葉はお願いしているようだけど、態度は十分命令に近い。
本気なんだね…
「それってさ、火遊びじゃないならいいって事?」
「………」
「ふふっ、決めつけないでよ…本気じゃないなんて。」
「本気なんですか?」
「さぁねぇ…言わないよ。特にお前には。」
ザァっと風の音がする。
「……宣戦布告と捉えても?」
「どうだろうね…そもそも蘇枋は俺と同じ土俵にいるの?」
ブライドの高そうなスマートな男は、顔色一つ変えない。
「…左胸の下と、太ももの付け根。」
「……何?」
「ホクロですよ、沙良ちゃんの。」
「………」
ニッコリと微笑む蘇枋。