第44章 ※悲哀
(嘘………!?)
(か、梶さん…?)
今の声を聞かれていたということだろうか
でも心配してくれてるということはそういうことなのだろう
[あ、だ、大丈夫ですよ…!]
[気にしないでください!]
こんな私 見られたくない
必死に取り繕っているけど露骨な演技だ
あわあわして敬語に戻っているし
これでは何かありましたと言っているようなものだ
(………大丈夫なんだろうか…)
何を言うかヒヤヒヤしながら待っていると
[…ならいい]
[…着替え置いとくからな]
[ゆっくり入れよ]
[ありがとう…ございます]
その言葉を残した後ぱたんと扉が閉まる
[……………]
(はぁー…)
へなへなと体に力が抜ける
どうやら信じてくれたらしい
最初バレたのかと思い生きた心地がしなかった
確かにあんな変な声出していたら誰でも声をかけるだろう
何かあったのだろうと
(……それはそうだよね)
というかそれほど気づかない私って
まぁこれに関しては今に始まったことではないが
(…湯船にはいろ)
サッサと体を洗い流しチャポンと音を立て湯に身を任せる
暖かく丁度いい温度
雨で冷たく染み渡った体が生き返るようだ
(…………それにしても)
今日は色々なことが起き過ぎた
振り返ると鮮烈に甦るほどに刺激的すぎて辛くて
(……疲れた)
脳内に浮かぶのはこの一言
だからなのだろうか家に帰るまでは
せめてこの一瞬だけは
(何も考えたくない)
休みたい
少しの間だけでもと
そう思い瞼をゆっくり閉じた