第1章 冗談なんかじゃない
「お嬢!!いい加減にしないと冗談じゃすまなくなりますから!!」
「冗談なんかでこんなことする女だって思うの!?おまえはあたしをそんな尻軽な目で見てたわけ!?」
「いや、だから!!」
「…………お願い加賀谷」
屋敷のとある一室。
と言っても自分の部屋なんだけど。
ソファの上押し倒し、あたしが大胆にも跨がっちゃってるこの男は、ここ桜組の時期若頭候補。
候補、というのは。
あたし、桜 杏果(きょうか)の婿候補、でもある。
桜組組長である父からの命で、あたしが選んだ男が次期若頭となるのだ。
そんな馬鹿げた話をされたのはつい1ヶ月前のこと。
20歳の誕生日の宴の席で。
あのタヌキじじいがあたしに5人の婿候補、とやらをあてがった。
一式 亜貴 28歳。
箕島 尚 30歳。
小田桐 武尊 26歳。
三園 玲 29歳。
そして。
10歳の頃からあたしのお世話係とやらをしてる、加賀谷 彗29歳。
この中から選べ、って。
完全あたしの人格無視してる話なわけで。
なんでこんなにだだっ広い世の中で、こんな狭い世界で将来一生添い遂げる旦那を見つけなきゃなんないんだ!!
って。
啖呵切って家を飛び出した。
まぁ結局、友達のところやネカフェ転々としたところで。
ここいら仕切ってる組の方々にはあたしの居場所なんて朝飯作るより極々簡単にわかっちゃうわけで。
あっさり1週間後。
「もう十分楽しんだでしょ。親父さん心配してますよ」
なんて。
迎えに来た加賀谷に連れ戻された。
それから。
事態はさらに悪い方へと転がってしまったことを聞かされたのも、連れ戻された夜だった。
『三園と婚姻を結ばせる』ことが、決まっていたのだ。