第1章 冗談なんかじゃない
1週間立って。
加賀谷が退院したと、聞いた。
「お嬢ほんと、俺が送って来たって絶対言わないでくださいね。加賀谷さんに殺されるんで」
「大丈夫。任せといて」
「頼みますね、ほんと。帰りも連絡くれたら迎え来ますんで」
「助かるわ」
バタン、て。
後部座席のドアを閉めて。
目の前のマンションを見上げた。
加賀谷のマンション。
組の屋敷にもたくさん住所をうつしている人たちはいるけど、幹部から上は基本こうやって自分の自宅を持ってる。
「加賀谷、開けなさい」
オートロックマンションの部屋番号を押すとすぐに加賀谷の声がした。
「疲れてるんで、明日屋敷顔出しますよ」
「あ、そ。じゃぁいいわ」
「…………ちょっと待って、ひとりですか」
「当たり前じゃない」
「…………」
しばらく沈黙のうち。
エントランスの扉が開いた。
使えるものはなんだって使ってやるわよ。
あたしをひとりにするなんて無謀なこと、加賀谷が出来るわけないの知ってるから。
そのまま最上階までエレベーターで行き、部屋のドアノブをまわす。
薄暗い部屋の中、ベランダでタバコを吸いながら加賀谷が不機嫌そうにあたしを出迎えた。
「なんの用ですか、疲れてるんで横になりたいんですけど」
「…………」
「それとも男の部屋にひとりでのこのこ来て、誘ってます?」
「襲う度胸もないくせに」
「…………煽りにはのりませんよ」
「別にいい」
スタスタと加賀谷のいるベランダへと足を向け、くわえたタバコを奪う。
そのまま口に咥えて吸い込んで。
思い切りむせ込んだ。