第2章 失われた日常
「ですから、まだお帰り頂く訳には参りませんので」
「何なんだよ…あ、そうだ!景山!!」
「何で御座いましょう?」
「俺の携帯何処だよ!お前どっか遣ったろう!」
景山が眼鏡をクイッと上げた
(…コイツ、何か企んでるな…)
景山の作り笑いを見ながら、言い知れぬ危機感を覚える
(…俺をどうするつもりなんだ…)
思い切り警戒して睨みつける俺に、満面の作り笑いを浮かべた景山が言い放った
「そう仰ると思いまして、先ほど新しい携帯電話をご用意致しました」
「…はぁ?!」
そう言うと真新しいスマホを差し出す景山
「これまでお付き合いなさっていた方々のデータは全て消去致しました
此方には、和也ぼっちゃまがお付き合いするに相応しい方のみ、登録して御座います」
「なっ…何言ってんだよお前っ!!」
「相葉様には先ほど、私の方から旦那様のご意向をお伝えして参りましたので」
「…え」
ざわざわと、背中を冷たいモノが駆け上がる
「相葉様とは、ぼっちゃんと金輪際お付き合いさせぬようにとの事でしたので」
「な…なに…したの……雅紀に…」
「手切れ金をお渡しして別れて頂く様に言って参りました」
「!!!!!」
手切れ金?!
「嘘だろっ!…ま、雅紀は…」
「私は受け取って頂いたと言う認識をしておりますが」
「……嘘だ」
嘘だ…そんな…そんな筈…
「お店を経営なさっていると、色々資金繰りも大変でしょうし、あちら様も都合が宜しかったのでは?」
「……うそ……だ」
「では、私はこれで…ご夕食の準備が整いましたら、お呼び致します」
「………」
(ああ…また……目の前が真っ暗だ……こんな感じになるの、二回目だな…)
俺は握らされた新しい携帯電話を見詰めた
「…お前の番号くらい覚えときゃ良かったな…」
こんな事になるなら…ちゃんと…覚えとくんだった…
「……雅紀……逢いたいよ」
見詰める携帯の液晶画面に、今にも泣きそうな自分の顔が映っていた