第2章 失われた日常
「なあ、もう帰って良いだろう?
爺ちゃんの話しはまた今度って事でさ…俺今日帰るって約束したんだよ」
昼間出かけていた執事の景山が戻ったので、俺は早速捕まえて家に帰りたいと告げた
(もう、うんざりだよ…早く帰りたい)
元旦のパーティーは、何だか何時もと(と言ってもここ最近は出て無かったけど)違っていて、妙な違和感を覚えた
やたらに皆から「おめでとうございます」と言われたのだ
最初は新年だから「おめでとう」と言われてもそんなに違和感を感じなかったのだが、段々、何か変な気がして来た
…どうも、俺個人に対して「おめでとう」と言っている節がある
挙句の果てに「お幸せに」なんて言うヤツまで出て来た
(何がお幸せになんだよ)
訝しがる俺の様子を見ても、親父は黙って愛想笑いをするばかりで、何も言わない
結局そんな感じでバタバタと正月の三が日が過ぎて行った
で、今日
もうこの忌々しい社交辞令地獄から解放されると思って嬉々として帰り支度をしていたら、景山に
「今日もお帰り頂けません」
と告げられた
「何でだよ!今日帰って良いって約束だろ」
「大旦那様が直々にお話しがおありだそうで、それまではお帰り頂く訳には参りません」
「爺ちゃんが?何時?昼?」
「いいえ、夕刻にお出でになるとの事でした」
「マジかよ!」
俺が小さく舌打ちすると、景山はキチッと頭を下げて言った
「私は旦那様のご用事を仰せつかっておりますので、これで」
「あそ。
…んで、俺今日は夜までナニしてりゃ良いの?」
「お部屋でゆっくりなさっては如何ですか?この三日間、お忙しくておいででしたし」
「…つまり、屋敷から出るなって事だな」
「流石ぼっちゃま、お察しが宜しくて」
「……ぼっちゃま言うなよ(怒)」
むくれる俺に何時もの営業スマイルで景山が言う
「では、若旦那様とお呼び致しょうか?」
「(何処かで聞いた言い回しだな)…もうイイよ、何でも」
景山は再びキチッと頭を下げると出かけて行った