第5章 眠れぬ夜が明けて
(…もうじき夜が明ける…)
俺は擦れた声の言い訳を考えながら窓の外を見た
本当はもっと早く戻ろうと思っていたんだけど、そんなにスグには離れられなかった
何度も、何度でも
壊れるくらいに抱いて欲しかった
永遠に忘れない様に、このカラダに雅紀の記憶を刻んでおきたかった
雅紀を信じていない訳ではない
ただ俺はあの家の怖さを知っている
家長がこうと言った事は何を曲げても実行させる…それがあの家のやり方だ
もしも俺が雅紀と逃げたとしても、すぐに捕まって連れ戻されるだろう
それどころか、雅紀が職を失って路頭に迷う危険だってある
だから俺は、コレが最後のつもりで雅紀に抱かれていた
その長い腕が
大きな手が
黒目がちな瞳が
彼を形造る全てが…大好きだった
冷めて斜めにしか物事を見れなかった俺に、素直な気持ちを思い出させてくれた人
打算も計算も何にも無しに、真っ直ぐに俺を愛してくれる人
この世で一番、大切な存在
俺はそれを…失うんだ
胸の奥が冷たくなって大事なモノを失う喪失感に叫び出したくなる
それでも俺はこの暖かい腕から離れて
…行かなくちゃ、ならないんだ…