第5章 眠れぬ夜が明けて
「じゃあなニノゆっくりしていいからな」
うちの自宅マンションの前に車を止めると、櫻井さんが無表情で前方を見たまま言った
「…何でそんなに棒読みなんです?」
「別に棒読みなんかしてねぇよ俺はここで一晩中車の中で待ってるけど気にしないでゆっくりしろ」
どう考えても様子がおかしい
大体、運転中も一言も発せずに終始難しい顔をしていた
(…原因は明らかですけどね(笑))
「完全棒読みだし…そりゃ、要するに早く帰って来いって言ってるんですよね?」
ちょっとイジワルしてそう言うと、相変わらず表情を変えずにまた棒読みする櫻井さん
「言ってねぇよ智くんが心配で早くして欲しいなんて一個も思ってねぇ」
無表情なのに、“智くん”って言った所で鼻の穴がピクピク動いた
(本当に解りやすい人だなぁ…)
俺は噴き出しそうになるのを堪えて、わざと馬鹿にした様な声を出した
「俺なんかの事より、やっぱり大野さんが心配なんですねぇ…まぁ、そうだろうと思いましたけど」
「だから、思ってねぇ!」
櫻井さんはやっと俺の方を見ると、ちょっと不貞腐れた顔をした