第5章 眠れぬ夜が明けて
「ぼっちゃま、お目覚めでしょうか?」
取り澄ました景山の声が、妙に癇に障る
俺は布団を頭から被った
「お目覚めじゃねぇ」
それを聞いてドア越しに景山が言う
「本日は婚約者のお父様が見える予定で御座います。
ぼっちゃまにご挨拶をさせるようにと旦那様が仰せです」
「…来るのは親父の方だけなのか?娘は?」
「お嬢様は今ニューヨークにいらっしゃるとかで、婚約披露パーティーの当日に帰国なさる予定とか」
「なんだその、婚約披露パーティーって」
初耳なんですけど…って、昨日から初耳な事ばっかだけどさ
「明後日の夕刻より先日の新年の集いと同じ会場にて開催の予定で御座います。
各界の著名人を招いて大々的に開くのだと、旦那様も何時になく楽しみになさっておいででした」
「明後日?!すぐじゃん!」
「はい」
はいじゃねぇよ!
「…何なんだよ、もう…」
「ぼっちゃま」
「…なんだよ」
布団を被ったまま返事をすると、景山が「失礼致します」と言いながら部屋に入って来た
「勝手に入んなよな!」
「申し訳御座いませんぼっちゃま…お夜食は召し上がらなかったのですね」
布団から眼だけを出して覗くと
景山が、サイドボードに放置したまま手がつけられて居ない食事が乗ったトレーを持ち上げている所だった