第3章 二宮財閥
大旦那様から結婚の話しを聞かされた時の、ぼっちゃまの絶望に満ちたお顔を思い出す
「…ぼっちゃま」
相葉様と知り合う前のぼっちゃまだったら、きっとそんな顔はなさらなかっただろう
まるで他人事のように「あ、そ」なんて仰って気にも留めなかったに違いない
嘘と見栄に塗れた世界で育ったぼっちゃまは、とても冷めた少年だったから…
「いえ、違いますね……冷めたフリをなさっていたんですよね」
私は掛けていた眼鏡を外して、すっかり古くなったそのフレームを指で辿った
「自分を押し殺して…冷めたフリをなさって……本当は、とてもお優しい方なのに」
古い眼鏡を愛しむ様に撫でながら、私はこの屋敷の執事を仰せつかったばかりの頃の事を思い出していた
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私は当初ガードマンとしてこの屋敷に雇われた
その数年後
私は高齢の為前任の執事が職を辞するに当たって、屋敷の警備主任を兼ねて家の裏の全てを取り仕切る大役を仰せつかった
その時、私はまだ齢30にも満たない若輩者で、この由緒ある二宮家の裏全てを取り仕切ると言う大役に、若干の不安を覚えていた
何よりもこんな未熟者に皆が付いてきてくれるのかどうか
こんな未熟者がこの家の執事を務めて、家の名を汚す事にはなりはしないかと
そんな、下らない不安を抱えたいた
そんなある日、私が執事の大役を仰せつかってから初めて二宮家でパーティーが催される事になった
柄にもなく緊張していた私をぼっちゃまが部屋に呼び付けて、いきなり眼鏡を押し付けた
「コレは?」
「みりゃ解るだろ伊達眼鏡だよ。お前にやる」
「…はぁ」
「それ掛けたらちょっとは貫禄付くだろ」
ぼっちゃまはそう言うと、ベッドに寝転がってゲームをやり始めた