第3章 二宮財閥
いきなりの挙動に戸惑いながらもお礼を申し上げて一礼し、部屋を出ようと後ろ手にドアノブを掴むと
ぼっちゃまがゲームをしたまま私を呼びとめて仰った
「頑張んないでいいぞ」
「…は?」
「どんなに頑張ったってじいやには敵わないんだからな。
人間そんなに急にじじぃになんかなれねぇんだから
…でも、そんな気になるなら眼鏡でも掛けてろ」
「…ぼっちゃま」
ドアの前に立ち尽くす私に、ぼっちゃまが珍しく中学生の少年らしい笑顔を見せて仰った
「眼鏡を掛けた所で、若造は若造だけどな」
「…はい」
その一見意地の悪いモノ言いの裏に、ぼっちゃまの優しいお人柄が滲んでいて
私は胸の奥から沸々と湧き上がるものを感じた
この方を全身全霊で守って差し上げよう
この方に誠心誠意尽くして行こう
その時私は、そう、心に誓ったのだ
「こんなもの掛けなくても、少しは貫禄が付いたでしょうかね……ぼっちゃま」
私はその宝物をまた定位置に戻して掛けると、ぼっちゃまの部屋へ向かった