第3章 二宮財閥
まるで、悪夢を見ているようだった
思いも寄らない通告を受けて、俺はその場に居た全員が知っていた事の衝撃に打ちのめされていた
爺ちゃんの衝撃の一言を聞いた後、食卓を囲んだ家族たちが何の話しをしていたか何て、一つも覚えていない
ただ、その一言だけが、俺の全神経を支配していた
食事なんか喉を通る訳も無く、俺は出されたバカみたいに豪華な夕食には全く手を付けずに、部屋へ戻った
誰も居ない自分の部屋のベッドに、呆然と座り込む
『和也には、結婚して貰う』
爺ちゃんの台詞が壊れたレコーダーのように頭の中で繰り返される
「………ま、さき……どう、しよう………俺」
爺ちゃんの命令は、絶対だった
ソレは、“二宮”を名乗る者にとっては、何としても果たさなければならない事…
なんなら法律を破ってでも守らなければならない程のものだった
その爺ちゃんが「結婚しろ」と言った
…それは、雅紀との別れを意味していた
「…結婚なんか出来ないよ……雅紀と別れるなんて………有り得ない」
握りしめた拳に、涙が落ちる
「…嫌だよ雅紀……帰りたいよ……逢いたいよ…」
情けない位ポロポロと零れ続ける涙
「…どうしてくれんだよ……コレじゃ俺、泣き虫みたいじゃん」
ゴシゴシ涙を拭きながら、膝を抱えて蹲る
「お前の所為で、すっかり涙腺が緩んじまったじゃないか…
…責任取れよ…バカ野郎
…バカ雅紀
……バカ
………バカ………」
頭の中をグルグルまわる爺ちゃんの「結婚しろ」って声と、雅紀の笑顔
「…早く迎えに来いよ……早く…」