第10章 お風呂に入ろう
「次はもっと早くいくぜ!」
政宗の台詞にぎょっとしたのもつかの間。初撃を左にかわしたそばから第二撃。
言葉のとおり先ほどよりも早い。
返した刀が迫るのを即座に飛んで避ける。避けた先を狙ったような次が着物の端を引っかける。本物の刀ならば着物が斬れただけで済むが、斬れない刀のせいで引っ張られ、政宗の技に巻き込まれる。
なんとか体制を立て直すも、その次は足が動かない。
まずい。
頭の上に木刀を掲げ、利き手でない方が峯を支える。打撃に備えて腰を落とすが、思った衝撃が来ない。
それもそのはず、小助の木刀に当たる寸前で、政宗の木刀は止まっていた。
恐る恐る見上げた政宗は、もう小助を見てはいなかった。
「早かったじゃねーか」
「いえ、遅かったようで申し訳ござらぬ」
全開の扉を背に現れたのは、小助の主だった。
上田から急いで戻ったのだろう。しっかりと着込んだ旅装束。城に入れば部下に預ける二槍も背中に背負ったままだ。よく見れば、こめかみに汗も浮いていた。
眩しいものを見るように小助は目を細めた。
幸村も小助を見つけて、にかっと笑って見せる。
その自信溢れる頼もしい姿は、いつも以上に小助の胸をときめかせた。
「政宗殿! 小助の稽古までつけてくださったのでござるか! 誠にかたじけのうござりまする!!」
礼儀正しく腰を折る幸村。
「Hum? 気にするな」
宿敵の登場にすっかり機嫌を直した政宗は木刀を引いたばかりか、手を差し出し小助を引き上げる。おまけに立ち上がっても距離があることを気にしてか、政宗がかがんでまでくれた。
「そいつをくれるか?」
小助が手にした木刀を素直に渡すと、その頭を撫でまわし、最後に行けと促すように背を押した。数歩踏み出して振り向くと、政宗はもう小助を見ていなかった。
待ちに待った宿敵に逸る気持ちを抑えきれないというように幸村に向かう足取りが軽い。
「せっかくの道場だ。You see?」
「もうお体はよろしいので?」
政宗の心配するようなことを口にしながら、背中の牙を引き抜く。
こちらも待ちきれないのだろう。嬉々と瞳を光らせる。