第10章 お風呂に入ろう
「んなこと言うからさ! 俺、ちょっとだけ、ほーんのちょっとだけ期待したのに」
大きな体を小さくまとめて膝を抱え、床にのの字を書く宗時。
そんな幼馴染を横目に、木刀を肩に乗せた政宗が鼻で笑う。
「HA! 汗かくって他になにすんだよ?」
「ほら、いや、もうちょっと艶っぽいこととか」
空気を裂く音が宗時の淀みも一刀両断する。素材が木とは思えない研ぎ澄まされた斬撃に、側にいた少年も優等生の顔を崩して食い入るように見入る。そんな視線を気にすることもなく、さらにもう一振り。久しぶりの得物を手に振り回すだけでは満足できないのか、徐々に体全体の動きがついてくる。
時折差し込む日に飛び込む汗が光を放ち、少年の目にも輝きが宿った。
今でこそ同盟によって平穏な時を共に過ごしてはいるが、天下を目指す国が二つあればいずれ争いになることくらい少年にもわかっていることだろう。この熟練した技がいつか己の主への刃となろうことも。
それでも瞬きを止めてしまうほどに政宗の動きは少年を魅了した。
ただ純粋に強さを求める二人に危うい雰囲気はない。先ほどの色をにおわせる場面は、宗時ひとりが見た白昼夢だったと言っても信じてしまいそうなくらいに。
「さすがにないか」
悪い妄想を振り払うように動かす頭の上で雑に結われた髪が揺れる。
三者各々の思いが交差するは、武田が誇る鍛錬の場。
その一見飾り気がなく質素なように見えて、重厚感のあるしっかりとした造りを国主自ら設計と聞いた宗時が褒めれば、少年は自らが褒められたかのように誇らしげに胸を張りながらはにかむ。
「お館さまは設計だけでなく、建築もおひとりでなされたのですよ」
「そいつはすごいね。どれだけの年月かかったんだい?」
「夜寝て、朝起きたらできてました」
「そいつは……えっ、まじで!? ま、まあ豊臣秀吉は一夜で城を建てたっていうしね」
主に幸村のために作られたこの場所には数々の仕掛けがあるとのことだったが、口数の多い忍びの危ないでしょの一言で、すべて封印されたらしい。
落とし穴があったという場所だと言う少年の細い指を追うが、目を凝らしても木の模様にしか見えない。
それほどまでに精巧な出来の仕掛けに驚きを隠せない。
「あの防具を」
胴を守る鎧を掲げる少年を政宗が見下す。