第9章 忍びだらけだってさ
頑として譲らぬ主。ごまかしがきかないことを悟ったのか、六郎までもが長、と佐助を肩書で呼び神妙な顔で頷いて見せる。主だけでなく部下からも真実を話すよう促され、佐助は白旗を上げた。わざとらしく全身を使い、はぁと大きくため息をついてから話し出す。
「悪かったよ。俺様も半信半疑というか、確証を得ていないから話しづらくて」
「構わぬ。話せ」
「俺様が聞いたのは、戦が始まる4、5日前くらいだったかな……」
はじまりは佐助が配下の忍びから聞いた、とりとめのない話だった。
忍びは命を受け領内での情報収集をしていた際にとある噂を耳にした。
内容が子供に聞かせるお伽話のようであったことから、忍び自身も深くは意識していなかったが、道行く皆が知っていることに段々と違和感を覚え、最終的に佐助の耳にいれたとのことである。
どこかの国の殿様が共も連れずに城を出たまま行方をくらました。殿様はひとり、狩りの最中に足を滑らせ川に落ちて流されてしまった。それを見つけた若い女が、殿様を連れ帰り献身的に介抱した。やがて回復した殿様は甚く感激して、女を自分の城に連れ帰ろうとした。ところが、女はキツネに姿を変えて殿様の手をすり抜け、逃げていった。
以来殿様はそのキツネをずっと探している。
「それがどう小助と関係するのだ?」
「その女の容姿さ、小柄で長い栗色の髪に赤い衣だったんだって」
「その特徴なら小助以外にも当てはまるものは多いだろう」
「まあ、そうなんだけどね。たまたまあいつを知っている人がさ、幸村様付の女中にそっくりだって行商に話したらしいんだわ」
「その程度で? 由々しき事態とは思わぬが?」
幸村の言う通りだ。その程度では噂に出てくる女が小助とは言えない。たとえそうだったとしても行商に話したところで何の問題が起こるとも想像がつかない。
それでも佐助には確信があった。