第7章 おやつをたべよう
「げっ!」
「はぁあ?」
今は会いたくない人番付の横綱の登場に嫌悪の声が出る。
まさかの場所での鉢合わせに急ぎ踵を返すが、反応は相手の方が遥か上。
一歩踏み込んだ足は地面につけることができず宙を浮かされた。
「うえぇっ!」
掴まれた衣紋が襟を引き首を圧迫する。
気に入っていた小紋ではあったが、こうなっては脱ぐしかない。と決意した時には、すでに後ろ手での拘束が為されていた。
絶対に逃げることができない上、骨や筋に影響を与えない程度に痛みを与える絶妙な力加減が相手の実力を物語っている。情けなく漏れた声が敗北宣言だ。相手もそれくらいわかっているだろうにその拘束は一向に緩むことはない。
天下の往来で白昼堂々、公衆の面前であったが、目を向ける者はいてもその暴力行為を咎める者はいなかった。
それどころか通りを抜けるものは皆一様に「今日も仲良しさんね」などと、温かい笑みをこぼしながら足を止めることすらしてくれない。そこまで年中行事でもないと思っているのは己だけか。
そんな絶望の見世物に、救いの手を差し伸べる救世主が現れた。
「なんだ? うめも来ていたのか」
この状態の部下達を見て、今日はいい天気だなくらいの調子で話しかける主、真田幸村その人である。
「むみむままま! まむめめむままみっ!!」
うめ全力の救いの求めに、主は首をひねる。
「まむめめ!!」
「何を言っておるのだ? わからんから離してやれ」
うめだけに聞こえる舌打ちがしたのち、解放された。
ご丁寧に逃亡防止の影縫いを仕込まれて。