第5章 普通に怖いな
明かりが見えた。思い切ってそこに向かうと、息苦しさから解放される。
「っつうぱぁ! げふっげふっ! 何これお湯!?」
影からは出られたが、出た先は屋敷の中庭ではなかった。
全身びっしょりではあるが、寒くない。それどころか腰から下はじんわりと温かい。
湯殿にしては解放感溢れる景色だ。影の中で冷えた体が温まるのはありがたいがここはどこだ。
「なんじゃ、うめも来とったのかぁ!」
「へ? お、お館さま?」
聞きなれた声の先には、頭に手ぬぐいを乗せ、湯に浸かる武田信玄がいた。
うめの登場に驚いた様子は見せるものの、堂々とした佇まいは湯の中でも健在だ。
混乱に拍車がかかる。状況把握に努めようとするが、うめの頭は働かない。
何故、服を着たまま信玄と湯に浸かっているのだろう。
しかし、このお湯少し熱い。なんなら温度が上がってきている。
それにも関わらず信玄は、愉快そうに笑いながら額の汗を拭いている。
溶岩から飛び出せる人だから多少の熱さなど感じないのだろうか。
しかし、熱い。尋常ではない熱さだ。なんだこの熱さは……
水が振動する。背後の熱量に恐る恐る振り向けば、何も身に着けていないにも関わらず、体を赤に染めた紅蓮の鬼がいた。
「うめ!! お主どこから入ってきたぁああ!!!!」
主以上に真っ赤に染まった忍びが飛び出した。