第1章 オルカ寮生徒と編入試験
春がそこまで来ていて、のどかな晴れの日。
太陽の光が草木の葉を照らしているそれは若草色に輝いて、風が吹けばキラキラと光るのが美しい。
ここはイーストン魔法学校。
今日は高等部編入試験の日である。
上級生や内部進学の生徒たちは休日で、寮に残るものもいれば、実家に帰る人たちもいた。
そして、ここはオルカ寮。
新しくオルカ寮女子寮監督生に選ばれた3年生のルドヴィカ・マルドルトは、編入試験の様子を最上階から見下ろしていた。
男子寮と女子寮の中間にある談話室は春の日差しが暖かく、ルドヴィカの長く伸びた白銀の髪を光らせている。
「どうしたの?ルド。こんなところで一人でいるなんて…」
「……見てるだけだよ…」
彼女をよく知らない者は、女の容姿と佇まいから"雪女"と言う。
見た目からも、彼女の肌や髪は降り積もった雪の如く白い。
光沢もあるその肌や髪は神秘的ではあるが、標準並みに整った面立ちといっただけで、ただ表情が乏しいだけの普通の女子である。
左頬に目の下からと顎から頬に伸びる線が、十字を作る彼女の魔法の痣。
彼女の固有魔法はイマジネーション具現化であるが、それを主に治癒に使っている。
実家が医療研究に熱心な家系の血を引き、本人も将来は医師を志し、彼女の恩師であるメリアドール・エイミーの推薦で高等部から編入してきた秀才だ。
マーガレット・マカロンは、オルカ寮監督生であり、彼女とは編入してからの級友だった。
ルトヴィカが見下ろすそれをマカロンも確認すると、高等部に編入してくる志願者の編入試験が行われている。
「編入試験ね。随分熱心に見てるじゃない。誰か知り合いでもいるの?」
「うん…。もう長らく会ってない…」
「いつも無表情なあなたが、…珍しいわね」
「え?」
「なんでもないわ…」
視線の先には、新入生のローブを着ている受験者が群れている。
ルドヴィカの視線の先には魔法学校には似つかわしくない巨大なバーベルを高速で上げ下げする男子の姿があった。
視線の先をマカロンに気づかれないように、するりと脇を抜け、彼女は自身の研究室へと帰っていくのだった。