第5章 トラウマ
波の話を聞いて俺はふと思い出していた。波が初めて俺の屋敷にきた時だ。寝言で言っていた「殴らないで」は鬼ではなくてその叔父に対してだったことに。
俺は無意識に拳を握り絞めていた。
「師範!手!血が!」
波に言われて自分の手から血が出ていることに気がついた。
「し、止血しないと!」
慌てる波の手をとって俺はずっと謝っていた。
「ごめんなァごめん。俺はクズだァ。お前を苦しめた奴と大差ねェ。」
俺が波に言うとすかさず手を振り翳し
「違います!私は叔父と師範はおんなじだとは思いません!私は師範にあって救われたんです。私はずっと悪夢を毎晩見続けていました。どれだけ楽しいことがあっても必ず見ていました。でも師範と過ごすようになって師範との生活で悪夢をかき消すように見なくなったんです。それはきっと師範の優しさがアイツを忘れさせてくれたから。私には貴方がいない生活なんて考えられないんです。出ていけなんて言わないでくださいっ。」
と言った。そう言う波は少し困り眉で笑っていた。
俺はこの歳下の女の顔から目が離せなかった。
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波said
まだ全部じゃないけど話しちゃった。正直まだてが震えてる。転生の話は墓場まで持って行くつもりだ。だけどどうしてもこの話だけは師範に聞いて欲しかった。もし嫌われたとしても。でもここでトラウマともお別れしないといつまで経っても成長出来ないから。これで良かったんだ。
「波その叔父は今どこにいるんだァ。」
師範が今にも人を殺しそうな形相で聞いてきた。
「もういません。どこにいるかわからないんです。」
これもあながち間違えではないだろう。
「気にしないでください。もう終わったことなので。すいません、こんな話されてもですよね、」
私が席を立とうとした瞬間師範が私の腕を引っ張り体を抱き寄せた。
「無理して笑うなァ。泣きてーんだろうがァ。誰もみてねェ好きなだけ泣けェ。」
そう言われた瞬間今まで涙一つ出てこなかったのに気づいたら大量の涙が溢れ出ていた。
「うっ、グスッ、ふ、うっ」
私は師範の腕の中で声を抑えて泣き続けた。まだ泣けたんだ私。