第13章 7日目
「ダメじゃないか、被検体をカゴから出したら」
そう言いながら博士はオラをスニッファーのカゴから出して元いた自分のカゴに戻された。その時、博士の手がトーチフラワーにぶつかって花びらが散ってしまった。
それなのに博士は花びらには一目もくれずに離れていこうとするから、オラは思い切り博士の手を蹴っ飛ばしてやった。痛いと手を引っ込める博士。どんなもんだ! 小さくたってオラはストライダーだぞ。
「田中くん、ちゃんとシツケないとダメじゃないか」と博士はサツキへと言葉を投げる。「このストライダー、私の手を蹴ったぞ」
「え、そんなことする子じゃないのに……」
悲しそうな顔でオラを見つめるサツキ。どうやらオラはサツキを困らせてしまったみたいだ。こういう時、言葉が通じないのがもどかしい。
「まぁとにかく、明日は矢の雨を避ける実験をするから、その間に暴れないようにしっかりシツケて置くことだな」
「矢の雨?! なんでカズにそんなことをさせるんですか!」
初めて、サツキの叫び声を聞いた。オラはびっくりして何も出来ないまま、サツキの次の言葉を待った。
「ここの研究所はMOBと人々をよりよいものにするためのものであると聞きました……! なのにそんなことをしたら、カズは……」
「カズ? 被検体にそんな名前をつけたのか」博士の言葉は冷酷だった。「田中くんはどうやらMOBに感情移入し過ぎたようだね。そんな名前で呼ぶのはやめて、今日はシツケに専念したまえ」
「博士!」
パタン……。
あまりにも静かな音だけで、博士は早々に部屋を出て行った。
だけどオラは、サツキの握った拳が見えていた。
「……やっぱり、みんなをここから助け出さないと」
サツキが呟いた。オラとは全然目が合わない。
「ごめんね、カズ、スニッファー、大きな声出して」そう言って、サツキはオラとスニッファー親子をカゴから出した。「自由にしていていいよ。私は他の子たちの様子を見てくるから」
前にサツキが言っていた、オラたち以外に世話をしている他の生き物のことの話だろうな。
サツキはオラたちの頭を撫でて部屋を出て行った。オラもついて行こうと思ったんだけど、どうも歩幅が小さ過ぎて追いつかなかった。
「サツキ、大丈夫かなぁ」
サツキをあのまま放って置いたらいけない気がした。