第12章 6日目
次の日。オラはまた四時くらいに起きた。
スニッファーは隣のカゴで眠りこけていたんだけど、オラが動くと一匹が動いてこちらにゆっくりと近付いてきた。
起こしちゃったかな、と思って見てみたけど、スニッファーはお喋りをしないからよく分からない。その時、突然ドフッと床に倒れ込む? からオラは急いで駆けつけた。
「おーい、大丈夫か?」
大丈夫じゃないし。
と返事があった気がしてオラははっとした。スニッファーはなんともなかったかのようにまた立ち上がって向こうに歩いて行った。
スニッファーは何も喋ってはいない。
さっきの声はさんだーの声だったと思い出し、オラは急に寂しくなった。さんだー、元気にしてるかな。
ふと見た先で、地面から見たことのない緑の何かが生えていたことに気がついた。これはオラも知ってるぞ。これは芽ってやつだ。
ってことは、あのトーチフラワーの芽かもしれない。昨日のサツキはトーチフラワーがないことを気にしていなかったけど、今日は思い出すかもしれない。この芽が花になるまでは土を盛って隠してしまおう。
サツキ、きっと喜ぶぞ〜。
そうしている間に、いつもの時間にサツキがやって来た。おはよう、サツキ。通じてないみたいだけど、挨拶は大事だ。前の飼い主にもそう聞いたからな。
だけどサツキがいつもとは違う様子でオラは顔を覗き込んでみた。暗い顔でずっと下を見てばかりだった。
「……あのね、カズ」
しばらく黙ったのち、サツキがゆっくりと話し始めた。重々しい口調な気がした。
「上司に、やれって言われたの……実験だからって」
実験? いつものだよね?
オラは大丈夫! 前の飼い主から色々と教えてもらったんだ。
オラは人間の話をよく聞いていたし色々やっていたし、大体出来るよと、伝わらない言葉を言い続けていたら、サツキが何か大きなカゴを部屋に押してやって来た。
「それはなんだ? サツキ」
オラは思わず聞いてみた。サツキはオラと全然目を合わさずに話を続けた。
「この中に入って、落ちてくる金床を避けていくの」とサツキは言う。「カズ、怪我をするかもしれないの。だから……」
「分かったよ、サツキ」
オラはその場でぴょんぴょん跳ねてみせた。実験がサツキにとってどれくらい大事なのか分からないけど、それくらい大丈夫だ。オラはストライダーなんだし。