第1章 甘夜に溶ける月
薬売りが湯殿から戻ると、布団の中でしっかりと両眼を開けたが見つめてきた。
「おや?まだ、起きていたのですか?」
「うん、今日は何だか全然眠れなくて…」
「そうですか。」
すると薬売りは徐ろに、薬箱から何やら砂糖菓子のような物を取り出した。
「では、これを。」
「?」
「ただの、お菓子です。噛まずにじっくり溶かして食べると、心が落ち着きますよ。」
「ありがとう。」
は薬売りに差し出されたそれを、言われた通りに口の中で転がしていたが、溶けていく内に優しい甘さから、次第に癖のある謎の風味が広がってきた。
訝しく思いながらも、深呼吸をして再び布団に身を横たえる。
行灯の明かりに照らされた、薬売りの透けるような白肌と、まだ水気を帯びた淡い金糸の髪、はだけた浴衣から覗く鎖骨が殊更に妖しさを引き立て、それを眺めているとかえって余計に眠れなくなりそうだ。
そのせいか、少しずつの心音が大きくなってきた気がする。
「……!?」
は突然、身体の奥底からジリジリと燃え広がるような熱を感じ始めた。
次第に心の臓が早鐘を打つように高鳴り、頬は紅く染まっていく。
「何、これ…?」
言い知れぬ不安と共に、今、眼の前にいるその男(ひと)に縋りつきたくてたまらない。
はもう、呼吸までもが乱れ始めていた。
そんなの、ただならぬ様子に気付いた薬売りは、喉の奥でくつくつと笑った。
「どうしたのですか?先程から、様子が、変ですよ?」
「分から…ないっ、身体が、熱い…!」
がそう言った時には既に、無意識に薬売りの腕を掴んでいた。
「、あれはお菓子じゃありませんぜ。」
「えっ…!?じゃあ…何だったの?」
「じきに、分かりますよ。」
薬売りはをそっと抱き締め、触れるだけの口づけを与えた。
そのまま押し倒され、青藍の眼がを捕える。
もう、この男(ひと)が愛しくて欲しくてたまらない。