第4章 “頂の景色”
確かに写真向きの表情じゃないなぁ。
『とーびおっ!』
「あ?」
こちらに振り向いた瞬間に私は背伸びをして、両人差し指を飛雄の口の端に当てた。そのままグイグイと上に上げる。
『ほら、笑え笑え〜!』
「ふぁへほ」
飛雄が私の腕を払い退ける。
すると、飛雄は私の髪に視線を向けると徐に腕を伸ばした。唐突の出来事に一瞬ドキッとしていると、さらりと髪に触れた飛雄の指には桜の花びらが1枚摘まれていた。
『さくら?』
「ついてた」
『ありがと』
「おう」
満足した写真を撮ることが出来たのか、両親たちが近付いてきた。手元の一眼レフのボタンをクルクルと回しながら撮った写真たちをプレビューする。
「「あら」」
2人の母が1枚の写真で同時に声を上げる。その写真はまさに飛雄が私の髪についた桜を取ろうという瞬間だった。
桜の位置を確認するために少しだけ屈んだ飛雄はいつもより穏やかな目をしていて、薄く唇が開いていた。伸ばされた大きな手はまるで大切なものに触れるかのように優しげに見える。ちょっとドキッとしたのは事実だけど、それは突然腕を伸ばされたからであって決してそういうのではない。
それなのに、
こうして見ると…なんか変な感じだ。
「飛雄、あんたやればいい顔できんじゃない、美里もなにこれ女優ね」
「なんか映画のポスターみたいね、これ引き伸ばして飾る?」
「絶対にやめろ!」
『絶対にやめて!』