第3章 旅立ちの日に
『えっ?』
「ボタン」
『うそ…まってこれ、トビヤマくんの?』
「だれだよそれ」
『ちょっごめん、興奮しちゃって…全部ないのに、なんで?』
「ひとつ持ってかれたとき、クラスのヤツらが上から2個目のは先に外しといたほうがいいって言うから…それで」
『これ第二ボタンなの!?』
「ここの」
指でチョンチョンと指した箇所は、確かに第二ボタンの位置だった。
『わ、わ、わ!』
「なんだよ、だったらいらねーのか?」
『一番欲しいよ!!…ありがとう!』
ボタンを摘んで受け取り、手のひらに転がして色んな角度から観察する。
「そんな、ダンゴムシみてーに」
『やめてよ、神聖な第二ボタンをダンゴムシって言うの!』
「あ?他のボタンと一緒だろ、何がちげーんだよ」
『第二ボタンって心臓の一番近くにあるの』
「ん…あぁ、で?」
『で…ってあんた心臓の近くだよ?一番心を近くに感じられる場所にあるんだよ!?だから、みんな第二ボタンは好きな人にあげたり、好きな人にもらったりするの!』
「……へえ、それにそんな意味があんのか」
『あるよ、大事なものだよ!』
「それ、ここのだけど、第二ボタンで合ってるよな?」
『?うん、合ってるでしょ』
自分がここのだと言ったくせに、何を確認するんだ。
「それ、第二ボタンだからな」
『だからわかってるって!大事にするよ!』
私がそう言うと、飛雄は眉間に皺を寄せてため息をついた。
『なによ』
「…べつに」
憧れのボタンを空にかざす。
少し傷のついたそのボタンは明るい春の日差しを鈍く反射させた。