第3章 旅立ちの日に
飛雄は、学ランのボタンを全て剥ぎ取られ白のインナーが丸見えの状態で女子と対峙していた。学ランのボタンに少し憧れがあった私は、帰ったら飛雄にひとつ貰おうくらいに考えていたのだけれど、まさかそんな焼け野原状態だとは思ってもみなくて、ちょっとガッカリした。
心底迷惑そうな顔をした飛雄は、泣き出す目の前の女の子の対応に困っていた。女子と話してる飛雄、珍しくてなんか面白い。
『………ふっ』
「あのっ!どうですか!?」
『あっ』
すっかり目の前の男子の存在を忘れていた。目を向けると、顔を真っ赤にしてもう一度私を好きだと口にした。どうやって断れば傷つかないかな。
『……えっと、あの』
「邪魔だ、どけ」
ドスの効いた低い声の主を見上げると同時に、目の前の男子に影ができた。
「ヒッ…!」
真上からわざと目線だけ下げて見下すように威圧した飛雄は、そのまま私に視線を寄越すと、見つめ合ったまま歩き出した。ボタンのない学ランは、歩く度にまるでマントのように翻る。
この場の誰かが放った「王様」というワードがまさに体現されたかのような雰囲気だ。
すると私の真横をすれ違う瞬間、飛雄はクイッと階段のほうを顎で指した。
“来い”
『!…あ…あの、ごめんなさい!』
「え…っ」
ぺこりと頭を下げてから急いで教室に戻ると、私は荷物を持って駆け出した。
「…鈴木、またな」
『またね、国見くん!』