第3章 旅立ちの日に
「……」
「……」
普段よりもスピードを上げていたのか、少し先で飛雄が国見くんとすれ違った。しかし2人は挨拶を交わしているようには見えなかった。3年間同じチームメイトで、試合にも一緒に出ていたのに…私は少し切ない気持ちになった。飛雄はあまりバレー部のメンバーと上手くやれているようには見えなかったし、実際そうだったんだと思う。元々飛雄はコミュニケーション能力が高いほうではないし、勘違いされやすいタイプなのかもしれない。
「鈴木、おはよう」
『国見くん、おはよ』
「卒業式だね」
『そうだねえ…3年間あっという間だったね』
「また新しい3年間が始まるよ」
『そうだね』
「…あのさ」
『なに?』
「今、影山と歩いてた?」
学校生活において、こういう不意打ち“影山”が一番心臓に悪い。
『え、今影山くんいた?』
この、影山なんて知らんスキル上級は3年間で培われたといっても過言ではない。
「いたよ、少し前に」
『うそ、全然気付かなかった…ってか私影山くんのこと知らないのにどうして一緒に歩くのさ』
「…そう?なんか隣に並んでるように見えたから」
私は来た道を振り返り、遠近法では?と顎に手をあてる。
「まあいいや。…ところで鈴木」
『ん?なに』
「俺たちって今後会うことあると思う?」
『クラス会とか?』
「…そういうんじゃなくてさ、一応俺は鈴木と結構仲良かったと思ってるんだけど」
『私だってそう思ってるよ!3年間クラス一緒だったの国見くんだけだし!』
「じゃあ、今日が最後じゃないと思ってていいの?」
国見くんがどういうつもりでそんなことを言い出すのかよく分からなかったけど、最後なんてことはないだろうし
『うん、もちろん』
と答えた。
よかった、と笑う国見くんの犬歯は中学生活の中で何度目かというくらい大変貴重なものだった。