第16章 **16
「リーチェ、こちらへ」
馬車に乗った後で、クラウィス様が私の手をやんわりと引いて隣へ座らせた。
「これだけは約束して欲しい。伯爵家へ帰っても、決して1人では行動しないように。特に夜は···いくら護衛がいるとわかってはいても···」
クラウィス様は、私の手を握って真剣に私の目を見つめた。
いささか揺れているようにも見える。
きっと、私の事が心配で堪らないのだろう。
「クラウィス様、ありがとうございます。お気持ちはよくわかりました。今回の事で私を傷つけたと思っていらっしゃるのでしょう?」
私は動き出した馬車の中で、ゆるゆると首を横に振った。
決して、クラウィス様のせいでは無いのだと。
確かにヒロインに命を奪われそうになり、あまつさえ媚薬を嗅がされてクラウィス様に···お願いしてしまったのだ。
抱いて欲しいと。
自分の快楽のために。
だからクラウィス様も被害者なのだ、だから、どちらが悪いでも無いと私は思っているのに。
「それに、私はクラウィス様があの場所にいらっしゃったからこそ、頼れたんだと思うのです」