第6章 ナンパ
-改札前の柱のところにいるね-
減速を始めた急行列車。
早々に荷物を手にして、ドアの前に立つ。
抉じ開けるように扉から出ると、足軽にホームを突っ切る。
出張帰りを待たれたのは初めてではないが、仕事よりも早く帰りたい、ということに意識が向くようになった。
改札の向こうにジウを見つけ、早足になる。
柱に設置されたサイネージを見ているジウがいつ気付くかと口角が上がりかけた時。
「あ?」
ジウを振り向かせた影に、声とともに下がるテンション。
早足を駆け足に変えて、投げるように切符を改札に放り込む。
「まだまだ知らない世界があるよ?おじさんと見てみない?」
ジウにナニを見せる気だ、と殺気を纏ったまま背後に立った。
肩を掴もうと手を伸ばした時、ジウがゆったりと笑って男の背後を指さした。
「彼が威圧だけで人を殺せそうだわ」
振り向いた男を睨めつけ、即座にジウとの間に入る。
悪かったねぇ、と立ち去ろうとした男が振り返ったので、ジウを背後に隠した。
「きっちり捕まえとかないと、俺みたいな悪い男に掻っ攫われていくぜ」
(言われなくとも、)
睨む背中が見えなくなって、ジウに叱りの一言でもくれてやろうと向き直る。
「おかえりなさい」
見上げてくる上目遣いな黒曜の瞳。
(っくっそ!かわいいなっ)
たった数日会えなかっただけなのに。
いつも通りメッセージのやり取りをし、毎晩、電話越しに声を聞いて、愛している、と伝えて、夢でも逢っていたのに。
実物が目の前にある喜びが勝って、溜息をつく。
「出掛けるときは目出し帽でも被っとけ」
「え、やだよ。不審者じゃん」
訝しげなジウに、ちょっと不審なくらいがちょうどいいだろ、と改札を出た時からジウの少し隣に立ってチラチラと目線を寄越してくる男を睨む。
「警察に声をかけられるじゃない」
「俺にくっついとけばいい。離れるなよ」
「そんなむちゃくちゃな」
笑ったジウに目を奪われている若い男からジウを隠し、次からは部屋で待つように言おう、と早々に人の多くない居住スペースへとジウの手を引いた。
END