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依々恋々 -Another story-

第34章 comming soon...?


時折、入院患者と思われる病衣の人影が通る。

待合の長椅子に掛け、時間を確認しようと腕を上げる。
(忘れたか、)
灼けていない時計の跡がうっすら残る手首を撫で、天井から下る時計を見る。
目覚めてまだ、一時間しか経っていない。
浅く掛け、低い背もたれに背を預けて天を仰ぐ。

(子ども、か)
十数年前に抱き上げた『娘』の事を思い出す。
籐編の籠にいた彼女は、生まれてから少し時間が経っていた。生まれたての子どもというのはあまり接したことがないな、とぼんやり考えて、いや、と改める。
(おでんさんとこの上の子が、一回り違うんだったか)
まだ、親代わりの一人が健在だった頃。
彼の親友が「子どもが産まれた」とハウスに妻子を連れて訪れたことがあった。

(でかくなったろうなぁ)
兄妹ならあんな感じか、と懐かしい記憶が蘇る。

「赤髪」
マルコの声にハッと目を開ける。
案内された部屋に並ぶいくつかのベッド。一番奥のカーテンの先にジウは寝ていた。
傍らの椅子にかけ、ジウ、と髪を撫でる。
「残念ながら、と言っていいのか、つわりじゃあないようだよぃ」
そうか、と複雑な面持ちで頷くシャンクスは、マルコが示した検査結果を受け取った。

「ちぃと疲れが溜まってんだろうよぃ」
しっかり休ませてやんな、と言って点滴の具合を見る。
「それ、落ちきったら帰ってもいいだろうよぃ」
落ちきる頃にまた来る、と手を振るマルコに礼を告げた。

ベッドの少し空いたスペースに腕を乗せ、ジウの寝顔を眺める。
昨夜、ほとんど眠れていなかったのかもしれない。
よく見れば薄くクマができていて、唇が乾いている。
(無理をさせたな)
ごめん、と、なにも気づけずにいつものように抱いたことを詫びる。
サラサラとした髪を撫でていると、少し、ジウが身動いだ。ゆっくりと開いた瞼の奥にいつもと変わらない黒曜の輝きが見え、安堵の息を吐く。

「具合、どうだ?」
「ん、ぁ、え?病院?」
どうして?と眉尻を下げて見渡すジウ。
「今朝、吐いたろ?疲れが溜まってるんだろう。少し休め」
ごめんなさい、と申し訳無さそうにするジウがなにかに気づき、ああ、と声を漏らして顔を顰めた。

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