第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「霞さんは俺もわからん。無表情で口数も少ないし。水さんも似たような性質だけど、挨拶と礼はしてくれるからさあ……反応は遅いけど」
「ダメ、苦手。俺は隊士になれなかったから物凄く劣等感を刺激される。天才型だから、挫折した人間の気持ちとか全然想像出来ないんじゃねぇ?」
「凄く好き!! だって顔が良いもん〜。あの無表情と毒舌も歳下だから可愛いって思っちゃう」
時透無一郎は一体どんな人なのか。
これは奈緒が、霞屋敷専属隠に任命された直後に、先輩隠へと問いかけた質問だ。
その返答は三者三様。故に彼女の脳内は大いに混乱した。
そして奈緒を更に憂鬱にさせるのが…。
「マタ無一郎ニ相手ニサレナカッタワネェ」
「……」
食器の洗い物を済ませた彼女は、縁側の硝子窓を閉めようとした所で、一羽の鳥に声をかけられた。庭の物干し竿に止まっている鴉は、随分と偉そうである。
霞柱の鎹鴉・銀子。
主の事を溺愛している為、同性(?)である奈緒が目障りで堪らないのだ。
『ドウシテ女ノ隠ガ配属ニナルワケ?? 無一郎ガ一人占メ出来ナイジャナイ…!!』
因みに無一郎は人間同様、鴉にもほとんど関心はない。よって今の独白は、銀子の自分勝手な感情である。
「奈緒ヲ構ッテル場合ジャナカッタ!! 無一郎ヲ追イカケナキャ……!!」
鎹鴉は基本的に隊士と共に行動をする。
銀子は慌ただしく漆黒の翼をバササ…と羽ばたかせ、主の後を追いかけたのだった。
『私……銀子さんに何かしたっけ?』
—— 奈緒の深い深い溜め息は、宵闇に吸い込まれるように消えた。