第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
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奈緒と無一郎が出会い、二週間が過ぎた。
茜色から紺色へ空模様が変化しつつある、そんな夕暮れ時。
上がり框(かまち)に座り、草履を履いた無一郎は帯革(おびかわ=ベルト)に日輪刀を指し、スッと立ち上がる。
「霞柱様、いってらっしゃいませ。お気をつけて」
「……」
背後に立った奈緒を一瞥もせず。
もちろん挨拶をする事もなく。無一郎は彼女をいないものと認識しているのだろうか。
ピシャン —— と無情に閉められた玄関扉の音が、奈緒の胸にすきま風を吹かせた。
そんな彼女の両手には火打石がある。
武運や厄除けを願い、これを使って切り火と言う行いをするのだが、霞屋敷で使用された事はまだない。
『ご飯は食べてくれるけど、何も言わないから口に合ってるのかもわからないし、これを使う間もなく討伐に行っちゃうし』
自分はこの屋敷にいて良いのだろうか?
そんな懸念がほぼ一日中、奈緒の脳内を充満していた。