第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
高専時代、呪術は非術師を含めた弱者を守るためにあるものだと考えていたこと、
だがある任務での失敗で、少女が殺され、その少女の死を悼むどころか万雷の喝采で喜んだ非術師達に醜悪を見たこと、
そこから非術師は本当に守るべきものなのかと疑問を持ち始め、苦悩の日々が続く中、追い討ちをかけるように後輩が任務中に死亡したこと、
そして任務で訪れた集落で酷い仕打ちを受けていた美々子と菜々子に出会い、心が決まった。
その集落の非術師を皆殺しにして2人を助け出し、呪術師だけの世界を目指してこの教団を設立し、今に至る。
「この道を選んで歩んできたことを私は後悔していない。誰に何を言われてもね」
「っ、」
夏油の語った話にはどこにも嘘はなかった。
全て本当にあった事なのだ。
それらを目の当たりにした時の夏油の心情を想像して奈緒の目に涙が滲む。
「だから、久織さんがそれを許せないと思うのなら、無理してまでここに留まらなくていいんだよ。私は君の意思を尊重する」
夏油の表情はいつもの穏やかな笑顔とは違い、眉を八の字に寄せて泣き出してしまいそうな笑顔だった。
「そんな顔でそんなこと言わないでください……っ」
奈緒は声を詰まらせる。
「……私、本音を言うと、夏油さんにそんなことしてほしくないんです」
こんなに優しい人なのに、その手を血で染めるなんて……
「呪術師だけの世界って、つまり非術師を皆殺しにするってことですよね?それをやめてほしいというお願いは聞いてもらえないでしょうか……?」