第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
おずおずと尋ねた奈緒に夏油は苦笑してゆっくりと首を横に振った。
「それはできない。これは私の意志だからね。もし私を止めたいのならそれこそ私を殺すくらいでないと止められないよ」
そんなことできる訳ない。
ズキリと奈緒の胸が痛む。
この痛みは……初めてではない気がする。
夏油さんは私の意志を尊重してくれている。
……でも、それは同時に私も夏油さんの意志を止められないってことなんだ。
「ごめんなさい、私……貴方にはついて行けません」
「いいんだ。君は何も悪くない」
「でも……!」
夏油の言葉を遮った奈緒は本当に伝えたかった言葉を紡ぐ。
「ここが大切なんです。夏油さんも菜々子ちゃんや美々子ちゃんも、菅田さんや袮木さん、ラルゥさんとミゲルさんも見ず知らずの私に優しくしてくれて……っ」
こんなに優しい人がそんな残酷なことをするなんて……辛くならない訳がない。
そんな時、私が少しでも慰められればと思う。
力にはなれないけれど、せめてこれまでの恩返しがしたい。
だから……!
「お願いします、ここにいさせてください。私にとってここは本当の家のような、かけがえのない居場所なんです」
奈緒の言葉に瞠目した夏油は信じられないといった様子で呟いた。
「……本当に、いいのかい?」
「はいっ」
「ありがとう。本当に……すごく嬉しいよ」
どちらからともなく2人は手を取り、お互いに笑い合う。
……―たとえこれが薄氷の上に積み上げられたものだとしても、その思い出は本当の宝物。
————完————