第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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彼女が出て行ったと分かって、確かな安堵の気持ちがあった。
君の隣に居た七海と灰原……。
自分の隣に居た硝子と………悟。
夏油の頭の中に、ポツリ、ポツリと浮かび上がるかつての仲間達。
自分達2年生の後に引っ付いて歩いてくる奈緒と七海と灰原。
そして、3人の真ん中で笑っている奈緒の笑顔。
その笑顔を見ながら、彼女を高専に連れて来て良かったと。
そう思いながら一緒に歩いた雑木林。
少しだけ舗装された道を一緒に歩いて過ごした青い春の日々。
あの場所が嫌いになった訳じゃ無かった。
ただ自分は…。
そこで笑う事が出来なくなった。
それだけだ。
『夏油センパーイ!!』
奈緒の声が聞こえれば振り返り返す笑顔も。
呪術師は弱きを助ける精神も。
全てがどうでも良くなった。
ここを出る奈緒の背中を見送りながら。
彼女はやっと自分の居場所に帰るのだと思っていた。
だけど…どうして。
ここで過ごす彼女の笑顔と、昔見ていた彼女の笑顔が重なるのだろう。
あの場所が彼女の居場所だと思って置いていった。
七海は……呪術師にもならない…優し過ぎる男だった。
君はきっと、私の離反を聞いた時に、その笑顔を曇らせただろう。
再び自分と会った時は呪術師として、私に向ける顔は笑顔では無かったはずだ。
こうして、家族で食卓を囲み、ここであの時の笑顔と一緒に笑う彼女を見て。
ここにいて欲しいと。
そう思ったら…悟。
君はまた私を許せないと思うだろう。