第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「さぁ…皆の所へ行こう」
「あの…夏油さん……」
「久織さん…君が何か…話をしたいっていうのはわかっている。…急ぐことはない…食事の後でゆっくり話をしよう」
夏油は奈緒の目を見て、聞きたいことがあるのに我慢をしているように見えた。
状況から言っておそらく、さっき話をしたことだろう。
記憶のない彼女からしたら、混乱させるには十分過ぎる話だった。
だからこそ…今ここで簡単に終わらせられる話ではない。
「はい…わかりました」
奈緒は夏油の言葉に頷き、一緒に食堂へと向かう。
「奈緒お姉ちゃん!どこ行ってたの!?」
「具合悪そうにしてたからっ…部屋に行ったら…いなくてっ…心配してたんだよ…!」
広い食堂へ入ると一目散で菜々子と美々子が奈緒に駆け寄ってくる。
奈緒が急にいなくなってしまい、心配していたのは2人とも涙腺が緩み今にも泣きそうな表情から伺える。
「ごめん……ごめんね……心配…たくさんかけちゃったよね…」
奈緒は美々子たちの背丈に合わせて屈み、2人を安心させるように頭を撫でる。
夏油さんだけじゃない。
美々子ちゃん、菜々子ちゃんもこんなにも私を心配してくれている。
私の居場所はやっぱりここなんだ。
奈緒は自分に抱きついている美々子たちを見てそう悟った。
だからこそ…夏油さん、美々子ちゃんたちの話をきちんと聞かないといけない。
でもそれは今じゃない。
奈緒は『話をすること』は一旦考えないようにし、純粋に家族との夕食に舌鼓を打った。