第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「呪霊が見える人間は少数です。それがいじめの対象になったり、村八分の原因になることが多々あります。呪霊が信仰の対象となっている場所ではその呪霊を祓ったことで石を投げられることもある」
非術師の安全を守っているはずなのに、そう認識されず報われない。
学生時代、そういう場面に出会したことも一度や二度ではなかった。
「その方を擁護する訳ではありませんが、その考えに至るまでに何か葛藤があったのではと思います」
「葛藤……じゃあ、最初はそう思ってなかったかもしれないんですね」
「ええ、お互い歩み寄る道がないかだけでも対話して確かめてみてはどうでしょうか?」
もし、奈緒の言っている人物が七海の思い当たった人物と同一ならば、かつては真逆の考え方だったはずだ。
七海の言葉に奈緒の表情が幾分明るくなる。
「七海さん、ありがとうございます。私、もっとちゃんと話してみます」
もっと夏油や菜々子、美々子の事情を考えてみるべきだった。
あんなに優しい人達が何のきっかけもなくあんな考えを持つはずないのだから。
七海と話して暗い胸中にスッと光明が差したような気分だ。
カフェオレを飲み干し、善は急げとばかりに立ち上がる。
が、すぐに財布を持ってきていないことに気づき、あたふたし始めた。
そんな姿にどこか懐かしさを感じて七海は苦笑を漏らす。
「お代はこちらで持ちますから。……ああ、最後に一つだけいいですか?」
「?、はい」
「貴女が生きていてくれて本当に良かった」
「あ、ありがとうございます……?」
いまいちピンときていない奈緒は首を傾げ、七海は更にフッと笑みを溢した。
「さあ、早く行ってあげてください」
「は、はいっ、七海さん、本当にありがとうございました……!」
見送る七海に別れを告げて、奈緒は喫茶店を後にした。